昨年は北欧のデンマークとストックホルムに行けましたが、「コペンハーゲンの緑」に引続き、個別の建物で面白かった体験です。それは、有名なエストベリ設計のストックホルム市庁舎ですが、内部空間ではなく外部のアプローチと中庭、そして海との関係です。建物は庭を介して直接海に面していて、建物へは海の反対側の小さな門からアプローチします。普段は門のくぐり戸が開いているだけで道路側はいたって閉鎖的で殺風景です。そのくぐり戸に私たちがなにげなく近づいてみると、飛び込んできた光景は光をバックにこちらに近づいてくる人々のシルエットでした。おまけに自転車を押してくる人までいます。
建物内部へ至るエントランスホール的な場所を予測していた私は、どうなっているのか一瞬混乱したことを覚えています。くぐり戸の先には少し暗い中庭が広がっていました。そして中庭の海側はアーケードとなり明るい海の風景を中庭に導き入れています。
最初の光景で人々の背後の光の正体は、中庭に直接差込む光とアーケードを通して入る海側の光でした。
中庭の床はゆるやかに海に向かって下がっているので、人々は自然と明るい海辺へ誘われて降りていきます。
写真右手の海に向かってゆるやかに下がった中庭の床
アーケードを通り抜けるとさらに先に低い段差があり、明るい芝生と舗石の庭が左右に広がっています。海際まで降りて振向くと人々が思い思いの場所で海に向かって和んでいるようすが目に入ります。
中庭の奥にアプローチの門が見える
同じような体験を街中でしたことはありました。古い街並みでの広場との出会いはだいたいこんな感じですが、レベル差と明暗の差が同時に展開する例はシエナの街並みとカンポ広場が思い出されます。ケルンでは高台の古い街並みの路地からライン川の光に誘われて降りていくと、道の先、川沿いに芝生の広場が広がっていました。
ライン川沿いからケルンの旧市街を見上げる 中央に路地が見える
これらは多分に自然発生的なもので、同時に計画されたものではないでしょう。
ひとつの建物で、このような演出が積極的に行われている例は初めての体験でした。内部空間のすばらしさ、外観意匠の面白さなど、多くの建築家に感銘を与えている建物ですが、この外部空間にはランドスケープ関係の方はすでに着目されているようです。気がついてみれば、北欧の建築はランドスケープとの関係で優れたものが多い。アスプルンドの森の墓地はその傑出したものですが、豊かな自然環境が建物のごく真近にあることで、昔からさまざまな対応が試みられてきたのでしょう。伝統的な日本の建物にもさまざまな試みがあるのでしょうが、現代を生きる私たちももっと意識して小さな試みを積み重ねていきたいと思います。(ht)