昨年、横浜のBankART1929の企画で、一昨年に続いて「アートテーブル」を街中に設置するというイベントに招待作家として参加させていただきました。
テーブルということで最初に思い浮かべたのは、アーティストの川俣正さんが、アルコール依存症の人びとと一緒に風景の中に何か仕掛けていくプロジェクトでまず最初にやったことが、「何をするかみんなで話し合うためのテーブル」をみんなでつくったという発言でした。テーブルというのは、とにかく人びとが集まって食べたり、飲んだり、喋ったりする場をつくる装置だと思います。
そのときには椅子やベンチのように座れるものがあるとさらに落着ける。テーブル単独では少し使い勝手が悪く落着かない気がします。
そこでテーブルでもありベンチにもなるような装置として「縁台」を思いつきました。昔の夏の風物誌で、家の前の街路に出して夕涼みやスイカを食べたり、また、街道の茶店の前にあって、そこで座りながら団子を食べお茶を飲む情景など、日本では馴染みのある装置です。
広重の版画より転載 街道の茶店の前に縁台
また、アートテーブルは早朝に街中に設置して日暮れには撤収するということでした。設置と撤収が楽で、しかも、その様子が楽しいものが良い。仕舞うときには折畳んでコンパクトにでき、キャスターも付いて楽に移動でき、畳んだ姿がちょっと「花魁電車」のようにあちこちに無造作に脚が飛び出して付いている、そんな全体像が出来上がりました。ベネチアで見かけた屋台 屋根が広がりテーブルが開く
もうひとつこだわったことは、せっかく屋外に設置されるのであれば、その場所の風景を楽しめるものでありたいということです。そこで、テーブルトップは鏡面にして周りの風景を映し出すものとしました。座ることを想定したところにはフェルトを張っています。越後妻有で見かけた作品 納屋に丸い鏡を貼り付けていた
全体の製作は武蔵野美術大学の助手の人が、また、鏡面にはスタジオの学生有志が曇りガラススプレーでパターンを考えてくれました。最初はみなとみらいのグランモール軸に設置鏡面のパターンと風景の映像ちょうどふたりがひとつのコーナーで向き合うスケール感畳んだ様子 脚がさまざまに出て頭でっかちの花魁のようとっかかりのスケッチ 家形から導かれたかたち
今はBankARTの倉庫に仕舞われていますが、今年の横浜トリエンナーレのときには会場のどこかに設置される予定です。会場で見付けられたら是非、座って楽しんでみてください。(ht)