街の空地に打ち捨てられた車
前年に引き続き1995年5月、ロサンジェルスを訪れることができました。地元大学の有志が招いてくれたのですが、講演後に、今度はダウンタウンではなく、郊外の住宅地に建つ建築家設計の住宅などを見せてもらうことができました。同時に、F.ゲイリーやモルフォシスの当時のオフィスやチャールズ・ムーアーの自邸など、現役の建築家のオフィスや住まいなども垣間見ることができました。
ゲイリーのオフィスは当時、倉庫風の2階建ての大きな建物で、現在進行形のさまざまな模型がそこここに見られました。専用の機器を備えた模型室などもあり、まさに波に乗っている建築家の事務所です。
倉庫のようなゲイリーのオフィス模型はプラハのダンシングビル
モルフォシスの事務所はこじんまりとした外観で、時間も遅かったので外だけで済ませようとしていましたが、帰り際に本人がわざわざ出てきてくれて、記念撮影とサインをした彼らの作品集を頂きました。モルフォシスの事務所:ちょっとテキサス風の外観
驚いたのはチャールズ・ムーアーの自邸で、本人がいないのに家は開放されていて、ある部分までは自由に入って見ることができました。中はさまざまなモノのかたちと色が氾濫していて、住み手本人を良く表しているようです。
チャールズ・ムーアーの自邸
印象深かった住宅はイームズハウスとシンドラーハウス、どちらも建築家の自邸です。イームズハウスは樹木が多く茂る広大な敷地に(どこが境界かわからない)、手前にスタジオ、奥が住居という幅約6m高さ約5.5mの2棟が中庭を挟んでリニアに連続しています。2層からなる断面の階高は約2.6mで、スタジオとリビングの上がそれぞれ吹抜になっています。見学当時、手前のスタジオ棟は財団事務所として使われていて、全体にイームズが生活していた頃の調度類がそのままきれいに保存されていました。建物の外壁面はモンドリアンの絵画のように黒枠で分割された色面でデザインされていますが、工業製品を組み合わせたという建物の単調さは、このデザインと周囲に広がる豊かな自然環境によりみごとに払拭されています。内部は残念ながら入ることはできませんでしたが、外からのぞいたり写真集をみたりすると、とても快適なスタジオと住まいだったようです。
イームズハウスプラン:イームズハウス写真集(PHAIDON)よりイームズハウス:カラフルな外観が緑に映える
スタジオ内観:イームズハウス写真集(PHAIDON)よりリビング内観:イームズハウス写真集(PHAIDON)より
シンドラーハウスは元々、シンドラー夫婦ともう一組の夫婦のための2世帯住宅として設計されたようです。各家族がL型住棟の一辺を共有して反対向きに縦列し、中央部にはガレージや共有キッチン、それぞれの家族は端部で独立した小さな庭をL型に取り囲んでいます。中央部のガレージやキッチン棟が独立したボリュームをもっていることで、全体の形状は複雑になり、一端が欠けた卍型のようです。図面を測ると、住戸幅は6m前後、高さは3.2mほどで内部の一部には下端で2.1mほどの高さの位置に梁が飛んでいます。平屋ですが、各住棟平面のL型角の上部にはパーゴラのような立上りがあります。解説文を読むとここは寝室だそうで、テントなどを適当に設えて眠る場にしたようです。雨が少なく暖かい気候ならではの場づくりです。
R.M.シンドラーの作品集(2G)表紙シンドラーハウスの平面:「2G」よりシンドラーハウスの庭側立面 右上に屋上寝室:「2G」より
残念ながら、私たちがその住宅に着いたときはすでに開館時間を過ぎており、案内してくれた人が交渉してくれて、やっと短時間の見学を許してもらいました。R.M.シンドラーについては大学の授業で扱った本にローヴェル・ビーチ・ハウスの写真が掲載されていて、ピロティー形式の華やかな外観の住宅イメージが強かったので、この自邸の最初の印象は「何だか不思議な住まいだなあ。」というものでした。天井高さはやたら低く、梁下では頭をかがめて歩きました。床はまるで土間のような感じ、建物の境界も曖昧で、庭と内部が連続的に展開します。夕方近くだったので薄暗く、倉庫のような味気無さも感じていたように思います。建築家の作品が持つヒロイックや晴れ晴れとした表情はまったく感じられません。滞在時間は10分ぐらいだったか。しかし、その後作品集などで見るうちに、何故だかこの住宅をやたら好きになってしまいました。
ローヴェル・ビーチ・ハウス(ウィキペディアより)
自分たちが撮った庭側外観自分たちが撮ったエントランス部分の外観
背面のコンクリートの壁に対して庭側は木柱で支えられ、ほぼ全面が木の引戸で開放できるようなつくりです。屋根はフラットで太い木梁で支えられています。建設中の写真を見ると、木造の軸組がほぼ建て終わった後に現場制作したRCパネルを組合せていったような感じです。シンドラーハウス現場 RCパネルを施工中:「2G」より
開口部は以前このブログで紹介したレーモンド設計の「旧井上房一郎邸」と同じで、内部の床は外部庭レベルと同じで、建具の下レールは土間床に直接設けられています。日本住宅のような意匠なのに、その部分が異なる。同様の例は清家先生の「私の家」に見られるぐらいです。雨が多く湿気がこもる日本の気候ではむしろ高床にして床下換気を十分に行うような形式が主流です。しかし、そのために内部と外部は明快に分断され、それを補うように縁側などが設けられます。内部まで外部的な空間を引き込んだ土間の例はありますが、海外では内外とも靴を履いた生活なので、雨の少ないロスではシンドラーハウスのようなつくりがむしろ自然です。魅力のもとはシンプルなコンクリート壁と開放的な木造部分の構成・素材感、土間の素朴さと暖炉部分にポイント的に使われる金色の金属パネルの対比などにありそうです。私たちの住まい「ROOM205」を設計しているときにもこの空間を思い浮かべていました。内部と外部の床高が同じ 引戸レールは土間床に直接施工:「2G」より金色に輝く暖炉の覆い:「2G」より
レーモンドとシンドラーは同じ時期にライトの事務所に所属しており、ライトとレーモンドは日本で帝国ホテル建設に関わり、シンドラーはライトの留守を任されていたことを考えると、そこで日本の伝統的な建築がどのような影響を与えあったのか気になるところです。(ht)
ライト設計の「立葵の住宅」(シンドラーが担当)シンドラーハウスに近いノイトラ設計の住宅