ミラノとトリノ(過渡期の建築の魅力)
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ローマには2、3日滞在し、ここから帰路に入りパリに向かいます。列車の旅だったので、一気に北上し、途中、ミラノとトリノに立ち寄りました。ミラノでは主に大聖堂とガレリア、工業都市のトリノでは構造家ネルヴィ設計のトリノ労働会館、うまくいけばレンゾ・ピアノ改修のリンゴット(屋上に試乗コースがある有名な旧フィアットの工場改修)、そして研究室の先輩に推薦されていたのですが、いくつかあるバロックの教会堂を見たいと思っていました。
ミラノ大聖堂はあまり期待していませんでしたが、実際に見ると、外観の華麗な装飾のまるでレース模様のような繊細さに圧倒されました。大聖堂ではありますが、フライング・バットレスを構成する部分の大理石の装飾や、細かな尖塔の上の彫像が幾重にも重なることで巨大さや権威性が薄れ、今までに見たことのないような存在感の建築を創り上げています。
また、ここは外部を通って屋根上へ行くことができ、それが楽しい体験でした。経路の周りにはたくさんの彫刻や彫像があり、ミラノの街を屋根上から眺めることもできます。ひときわ目を引く独特な高層ビルはBBPR設計のトーレヴェラスカです。
構造上シンプルな箱型が当たり前の高層建築にあって、この形態は、ちょっとジブリ建築のようなレトロな雰囲気もあり、たいへんユニークです。現在はコンピューターの解析性能が上がりさまざまにユニークな、非対称形の建物なども解析できるようになりましたが、どこか非人間的な表情になりやすい。そこを、このトーレヴェラスカはうまくかわしています。
大聖堂前の広場にはガレリアも面しています。パリに多く残るパッセージと同じ形式ですが、もっと大規模で整然としています。石造の門のような入口と装飾豊かなアイアンワークのガラスフレーム、そして大きなスパンを飛ばす近代的な構造技術の組合せが生み出す独特な表情は先のトーレヴェラスカ同様、どこか人間的な部分を感じさせて好きです。
トリノ労働会館は巨大なマッシュルームの傘のような屋根が床からのキャンチで立上り、同じユニットがトップライトのスリットを介して水平方向に広がり、その下に広いスペースを確保しています。ライト設計の有名なジョンソンワックス社事務所棟と同じ構造形式ですが、ネルヴィは構造家なのでもっと直截的で優雅さはないです。1枚の屋根がでかいので、柱も土木的な巨大さでしたが、スリットから入る光の表情は繊細で美しかったです。柱から四方に広がる放射状の梁の小口に光が反射して、それが意匠上も効いています。
ミラノもトリノも近代化された都市ですが、近代以前の多くの街並みが残り、その中に20世紀初期の鉄骨構造の建物が新しい表現として入り込んでいます。石造から鉄骨へ、新しい技術が加わることでそれをうまく調整するためにさまざまに意匠上の工夫がされますが、そのすこし混沌とした過渡期の状況のもつエネルギーが魅力的な建築をつくるように感じます。あまりに整理されて整然としてくるとその魅力は薄れます。難しいところです。(ht)