フィレンツェ訪問記
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イタリアは街並みや建築作品の宝庫です。私たちは北のヴェネチア、ヴィチェンツァから入り、南下途中にいくつかの小都市をまわり、ローマで引き返す予定でした。まずはルネサンスの都、フィレンツェです。しかし、スライド写真は予想に反して少なく、何故だろうかと考えていて、ここではウフィツィ美術館などで絵画や彫刻作品を見て回っていたことに思い当たりました。そのひとつがメディチ家礼拝堂のミケランジェロの彫刻作品です。
今回、スライドを見て、白と黒の大理石を巧みに使い分けていて、大理石の色と反対ですが、白が女性で「夜」、黒が男性で「昼」を象徴しているのに改めて気付きました。
街の中心に建つ大聖堂(Sta. Maria del Fiore)のドームの姿は美しく、また、大理石の外壁は近くで見ると緑、白、赤を使い分け、ベースは緑、彫像や付柱などは白、ポイントに赤を使っていますが、その精緻な美しさには感動しました。先のミケランジェロの彫像もそうでしたが、この時期、フィレンツェには各所からさまざまな大理石が集まっていたのでしょう。都市国家の豊かな繁栄が思い起こされます。
大聖堂ドームの設計者はブルネレスキです。街中では「ファサードのない建物」サン・ロレンツォ教会を見付け、日本の伝統的な建物にはないファサードという言葉(概念)を理解しました。メディチ家代々の菩提寺ですが、ブルネレスキが改修設計中に亡くなられ、その後他の建築家による改修が行われなかったので、そのままファサード無しになってしまったそうです。
また、ここには、パラディオ以前にウィトルウィウスの「建築について」と、古代ローマ建築の調査から「建築論」をまとめたアルベルティの建築があります。サンタ・マリア・ノヴェルラ教会ファサードで、プロポーションの良さとイスラム建築風のゼブラパターン、アーチの繰返しのファサードが魅力的で、パラディオ建築に比べて表層的で優しい印象です。同じアルベルティの建築でサンタンドレア聖堂がマントヴァにあり、こちらは2003年に外観だけを見ましたが、ジャイアントオーダーの柱と中央部の大きく抉れたボールト天井のニッチが威圧的な表情です。正面がニッチ状に大きく抉られたこの意匠は西欧建築には珍しく、古代ローマの凱旋門の意匠だとされますが、むしろイスラム建築を飾るファサードのムカルナスニッチとの類似性が気になります。
こう考えると、どれが正統的な西欧建築なのか、歴史の教科書で学ぶ様式建築の変遷は直線的に進むように錯覚してしまいますが、モダニズム建築も含め、実はさまざまな文化が混ざり合って柔軟に変化することで、今の建築状況をかたちづくっているのだと改めて感じます。そして、その方が豊かな世界になるような気がします。(ht)