建築を志すものにとってパラディオの建築は古典主義の教科書的な存在で、その建物が多く残るヴィチェンツァは訪れてみたい街のひとつでした。ちょうど学生時代にはポストモダニズムなどの流れでパラディオの建築が雑誌などに紹介されることも多く、今と比べると、とても身近な存在でした。また、ヴェネチアからは日帰りで行くことができるので、1日をヴィチェンツァ訪問に使いました。
実はヴェネチアにも2つの教会があり、いずれもファサードのバランスがとても良いのですぐそれとわかります。多くの建物で屋根の上に人型の彫像が載っているのもパラディオ建築のひとつの特徴です。大きな彫像が屋根上に配されることで、一見バランスが悪そうなのに、それらの彫像が不思議と無くてはならない存在になっています。
サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会(ヴェネチア)
イル・レデントーレ教会(ヴェネチア)
ヴィチェンツァの街の中心にはバシリカ(公会堂)が建っていますが、その設計者がパラディオです。バシリカ外観バシリカ2階伸びやかなホール内観パラディオの代名詞的な開口部の意匠
石工として働いていた彼は、その改修設計コンペで選ばれたのち、設計者として認められ、この街で多くの建物を設計することになったそうです。「建築四書」という建築のオーダーや図面を収めた書物を残し、後の時代に大きな影響を与えました。バシリカは、他の彼の作品と比べても、とてもおおらかな建築で、外部に連続するアーチと付け柱の開口部や内部のゆったりとした大きなホールなど、様式建築特有の堅苦しさを感じさせません。公会堂という曖昧な機能が良いのかも知れませんが、現代の街でも十分に成立しそうです。「建築四書の表紙」本の中のバシリカ図面
バシリカ2階のテラスから広場を見渡すと対面にパラッツォ・デル・カピタニアートという小さな作品が見えます。ジャイアント・オーダーという2層に渡る大きな柱がファサードを形成しています。次に訪れた建物には華やかなファサードはありません。大きな古典的な石積アーチの門を潜った先、壁がツタに覆われた建物内にテアトロ・オリンピコという劇場が隠されています。
薄暗い内部はギリシャの円形劇場がそのまま内部に組み込まれたようで、半円形の客席天井には空が描かれ、舞台には数本の街路と建物がセットとして常設されています。人型の彫像はここでは外周の円弧部分、円柱列の壁面上部に設置されています。ルネサンス期には遠い古代ギリシャの野外円形劇場があこがれの存在だったのでしょう。
テアトロ・オリンピコ内観・外周の円柱と上部の彫像天井に描かれた空と雲舞台に常設の街路と建物
最後はパラディオ建築の代表、ヴィラ・カプラ(ロトンダ)です。ヴィチェンツァから南へ2kmほどのところにあります。
ここは2003年にも訪れていますが、そのときは建物外部が修復中で足場がめぐらされ、一部には赤や黄色のダクトが突き刺さり、満身創痍のようなすごい姿でした。
2003年に再訪した時の状況
イタリアではよくある光景なのでしょうが、旅行中にあたるとすこしがっかりです。特にこの建物は4つの立面が同じで平面も対称形というように、幾何学的な美しさを追求したような作品なので、外観がすっきり見えないと来たかいがありません。
建築四書の該当図面それでも建物のロケーションは素晴らしく、小高い丘の上に建っていて周囲が見通せるので、清々しい気分になれます。丘の下からのアプローチも演出的で、正面に建物が見え、左右の建物と塀上にはさまざまな人型の彫像が立ち、私たちを迎えてくれます。
高台からの周囲の風景・建物影が映るアプローチでは両側の多くの彫像に迎えられるヴィチェンツァでは街の印象は薄く、どうしても単体の建築の話になってしまいます。街中では改修中の現場囲いのシルバーシートが美しく、思わず写真を撮ってしまいました。(ht)