ヴェネチアー路地と水路が織りなす街
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プラハからウイーンを経由してヴェネチアに着いたのは、もう暗くなりだした夕暮れ時、地図をたよりに予約したホテルを目がけて歩きだし、いきなり方向感覚を失ってしまいました。通路は狭く、見通しも悪い。おまけに両側を高い壁が遮る。方向感覚は良い方だと思っていたのですが、反対に普段は方向音痴のパートナーが先導し、連れて行かれるままについて行くと奇跡的に?ホテルにたどり着くことができました。
地中海交易の要衝に位置し、度重なる覇権争いの舞台でもあった街は、全体が要塞化しているとも言えます。海上貿易の主要水路や荷揚げ場、表の儀式等を行う広場は広く見通しも良いのですが、そこから一歩中に入り込もうとすると、水路も路地もたちまち迷路の様相に変わる、といったところでしょうか。
個人の空間が豊かな庭を内包しているように、迷路のように殺風景な街は所々に豊かな広場を内包しています。そのことを強く感じるのがヨーロッパの街の特徴のひとつですが、ヴェネチアではそこに複雑に絡み合った水路が重なります。水路沿いや橋詰には小さな広場があり、空が開けます。徒歩での散策に適度な明暗・広狭のリズム感を生み出します。そして散策の中心にはサンマルコ広場が広がっています。
比較的小ぢんまりとした街に対して、シンプルな形の広場はオーバースケール気味にも感じますが、繰り返される軽快なアーケードの意匠やきらびやかなサンマルコ寺院(最初の訪問時は改修中だった)が焦点ともなり、適度に配されたカフェの家具や床ペーブのパターンがアクセントとなって不思議と退屈になることはありません。
迷路性以外のもうひとつの特徴は車の入らない街で、徒歩と水上交通が日常の足になっていることでしょう。後年、香港やタイでも生活に根差した水上交通を体験しましたが、ヴェネチアのそれは別格で、普通の旅行者でも1日に何回も水上バスを乗り降りする気軽さが楽しく、水上から見る都市風景も、それを意識してつくられているので、すばらしいものでした。
北ヨーロッパの肉文化から離れて、久しぶりに少し贅沢して魚料理を味わい、いっぷくついた心持でした。(ht)