ウイーン―半外部的空間を内包する街
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35mmスライドの発掘
デジタルカメラが普及する前、海外旅行をするときにはカメラに35㎜スライドフィルムを入れて訪れた街や建築・風景などを記録していました。ところがデジタル化が進む中でそれらの資料が使われずに、大量に埋もれた状態になってしまっています。もちろん、私たちの記憶の中には何かしらのかたちで蓄積され、今の私たちの思考の一端を形成しているのは間違いないでしょうが、それをブログなどで気軽に紹介するにはデジタル化をしなければならず、躊躇してしまいます。ところが、たまたま自分たちの設計した建築写真のアーカイブをまとめる機会を与えられ、デジタル化以前のスライド写真を利用するために、使いやすく比較的性能の良い機器を購入しました。今ではその機器で自分たちが撮った旅行のスライド写真を、時間を見つけてはデジタル化しています。
最初の海外旅行はヨーロッパの街で、1986年だから今から35年ほど前ですが、ヨーロッパの街の変化はそれほど激しくはなく、今でもそれほど変わらないのではないでしょうか。最初の海外旅行なので有名なところが多いですが、発掘したスライドから印象的なものをいくつかピックアップして紹介していきたいと思います。
ウイーン―半外部的空間を内包する街
最初の街はウイーンです。ここには、私たちの大学に留学していた知人の建築家がおり、数日間、私たちを案内してくれました。ウイーンの街並みを構成する多くの建物は開口部が比較的小さく、外壁の素材はプレーンな石で灰色やベージュなどが多く、端正ですが表情に乏しい印象です。後から挿入されたモダニズム等の建築も窓面積を抑え、窓の並びを既存の様式建築にそろえるなどして、極力街路の調和を乱さないようにしているようです。東京のように雑然とした個性のぶつかり合う街から来ると、その秩序感に圧倒されて、しばらくいると押し潰されそうな圧迫感を少し感じてきます。
ところが、そのような街並みに隠れて、ホッとするようなリラックスできる空間が所々に内包されていました。カフェやバーなどはもちろんですが店舗だけではなく、建物内を貫通する街路空間、公共施設のロビー、展覧会場や旅行会社のロビーなどに外部空間のように明るく開放感のある場所がありました。
中でもオットー・ワーグナー設計の郵便貯金局の建物は秀逸です。街路に面した入口から階段を上り、階段室の扉を開けるとそこにガラス天井から光があふれるロビー空間が現れます。その経験は、知識として知っていても感動的なものでした。
20世紀はガラス建築の時代だとも言われていますが、私の中ではパリの「ガラスの家」(ピエール・シャロ―設計)とこの郵便貯金局が印象的で好きな建築です。(ht)