スペインのイスラム建築2ー形式の中の豊かな庭園
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パティオは建物に囲まれた矩形平面に十字形の園路が走り、中央交差部に水盤や噴水、4つの区画には植栽が施されるというのが典型的なパターンのようです。
オリジナルでは、4つの区画は園路面よりも2m近くも下がっていて、園路を歩くと樹木の茂った面を上から見下ろし、まるで絨毯の上を歩いているように感じられたということです。残念ながら今回の訪問ではそのような例は見られませんでしたが、セビリアのアルカサルにはその遺構が残っているそうです。
園路中央に細い水路があるものや、園路が消えて水路だけが残っているものもありますが十字の軸線は残り、アルハンブラ宮殿などではその軸線がそのまま周囲の建物内にも連続し、軸線の左右で対称的な部屋構成になっているものも見られます。
それでも、直交する軸線は壁面意匠に残っていて、そこは他よりも背の高い開口部などで強調されています。
折衷的に長い池の中央付近に短い園路が入り込み、十字の構成にも見られる例がアルハンブラの離宮、ヘネラリ-フェ・水路の中庭です。長手方向の片側にはアーケードが連続し、敷地の斜面に沿って下方に展開するアルハンブラの城塞風景がダイナミックに庭園内に取り込まれているのがユニークな特長です。
散策のための庭園は面的に広く展開するのですが、基本にはやはり軸線があって、平行する軸線沿いに趣向が異なるいくつかの庭園が配列されます。それぞれ特徴をもった庭が並行し、隣に移るとまた違う世界が展開しているという趣向です。
敷地にレベル差がある場合にはひな壇状にいくつかの庭が立体的に展開するのが面白いです。ヘネラリ-フェ宮の庭園はその例で、直交方向に上下の庭園関係が生まれています。軸線方向にもレベル差がある場合にはレベル差を貫いて連続する水路がダイナミックな風景をつくりだします。コルドバのアルカサルで体験しましたが、これが大きくなるとベルサイユ宮殿などのパースペクティブな広がりをもった庭園に発展するのでしょう。
それ以外でも、私的な領域では、中央の水盤などは残しながらもその場にあった風景をうまく取り入れてみたり、中央水盤自体をユニークな樹木・トピアリーなどで置き換えたりして豊かに展開しています。その試みの豊かさが、人々にとって庭園がいかに大切なものであったのかを物語っています。(ht)