スペインのイスラム建築1
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3月の初旬、まだ少し寒さが残る季節にスペイン南部アンダルシア地方のイスラム建築を訪れました。それは、たまたま古本屋で見つけた「楽園のデザインーイスラムの庭園文化」という本を読んでいるうちに、急に行ってみたい気持ちが膨らんだからでした。
いくつかの中庭を核として、その周りにさまざまな部屋が展開する構成は日本の伝統的な町家にも見られますが、イスラム圏の中庭はむしろ外部化された部屋として、そこに絨毯などを敷いて食事したり客人を饗したりして、内部の延長として、より積極的に活動を行う場として機能しているようです。寒暑と乾燥(砂嵐など)の厳しい屋外の環境から住まいを守り、その中に快適な人工環境を樹木や花々、水の演出を借りて作り出しています。中庭とその奥の部屋には仕切りがなく連続しているのですが、日差しが強く空気が乾燥しているので日影に入ると一気に体感温度が下がり、清々しい気持ちでいられます。
もともと、この中庭は古代ローマの伝統的な住まいに見られる「アトリウム」「ペリスタイル」などが起源のひとつでもあるようです。カエサル(シーザー)によるガリア地方のローマへの併合以来、イベリア半島にはローマの植民都市が多く築かれ、その骨格が残っていたということです。採光、通風、雨水処理などが主な機能であったアトリウムなどがモーロ人の手によって植栽が施され、水でさまざまに演出されることでより豊かで中心的な空間に育っていったのでしょうか?
イスラム建築のもう一つの特徴は壁面、天井、柱、床などへの華麗な装飾です。さまざまな色タイルで幾何学的なパターンを繰り返したり、漆喰の文様を幾層も組合せたりして、単純な2次元の表面ではなく3次元的な錯覚を起こさせたり、襞のある表面が次々と繰り返されるような奥行感を生んでいます。アーチのモチーフは細部にまでフラクタル図形のように繰返されています。そこには神の無限性が象徴として表現されているようですが、何も知らずに眺めていても圧倒される情熱を感じることができます。
素材感を大切にしたシンプルな構成に自然環境のわずかなうつろいを写し取る日本の伝統とは大きく異なる空間性なのに、その過剰さに嫌気がさすのでなく、何故か強く惹かれます。
これから、イスラム建築の庭園と建築について、そのあたりを気にしながら紹介して見たいと思います。(ht)