無鄰庵
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前回の京都訪問のおり、永観堂にも近い無鄰庵という山縣有朋の旧別荘を訪れました。
作庭は七代目小川治兵衛という人で、不正形な三角形の敷地長さを目一杯使った建物配置と水の流れが巧みで、背後の山並みを借景とし、地面を奥に行くに従って徐々に高くすることで見事に一体感を作り上げています。
主屋は木造2階建てで、十字型平面の中央に坪庭があるような面白い平面で、玄関に立つと正面の坪庭越しに主室、さらにその奥に広大な庭が覗き見られるような構成です。
残念ながら実際の見学では玄関は利用しないで直接潜戸を抜けて庭から建物にアプローチします。
私たちは蔵屋敷のようなレンガづくりの洋館を見て、茶室を過ぎ、庭のいちばん奥の水流の起点である滝を眺めてから建物に戻ってきました。茶室は珍しく縁台のような部分が池に面してあり、ここからも夏の夜など暑さを避けてゆったり水の音など楽しめそうです。
前日に泊まった白河院も同じく小川治兵衛の作庭でしたが、こちらの庭は無鄰庵に比べるとスタティックで、伝統的な浄土式庭園のように池の周りを回遊する形式です。主屋は武田五一設計の総二階でどっしりとした建物です。しかし、建具の繊細さはどちらも感動的です。昔懐かしい磨き板ガラスの入った建具ですが、木製の桟がシンプルで美しく、庭の風景を邪魔しないどころか、建具を閉めたときにはまた違った庭の魅力を引き出してくれるような気もします。京都は戦争で空襲を免れたために多くの木造建物が残っていますが、この頃の木造建物を形づくるさまざまな伝統技術などが各都市の庶民の住宅にしっかりと根付いていたら、今の建築界も少しは変わっていたかも知れません。
それにしても、日本の伝統的な建具に見られる繊細さは、シンプルですが、中東のさまざまな明かり採りに見られるアラベスク模様にも迫る気がします。室内環境をより豊かにする工夫がどこの国の伝統的な窓の意匠にも見られますが、装飾的な意匠は現代の、特に建築家の設計する住宅にはあまり見られません。それは、現代住宅のテーマが空間の構成を中心に設定されているからでしょう。そこでは、明るい室内で活動的に動き回る人々が想定されている気がします。それに対して、伝統的な建具意匠に表れる人々は、仄暗い中でゆったりとくつろいでいるイメージですが、どうでしょう?
龍馬記念館の新館から本館への連絡通路では、補助照明はあるものの、パンチングメタルの壁から溢れる光だけで室内環境をつくりました。新館の展示を見た余韻にひたり、本館への期待も感じられるような場にしたいと考えました・・・。(ht)