土間と土壁ー民家園1
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民家は何と言っても土間の空間が圧巻で、黒々とした濃い闇の中のヒンヤリとした土の感触や、煤で磨かれた木の柱、梁のたくましさ、土を大きく盛り固めたかまどや囲炉裏の火のあたたかさ、小さな開口部から射し込む光などがさまざまな物語を紡いでいるようです。高山の民家では土間の床は乾いていましたが、民家園にあるものはどれもすこし湿気を含んでいるように黒々として、また、ゴツゴツと波打っています。
また、今回、再認識したことは、民家の壁が土壁だったということです。私たちが子どもの頃は当たり前でしたが、住宅の、特に和室の壁は細かい竹を編んでその上に土を塗って仕上げる「小舞壁」でした。その後、下地は手間のかかる竹ではなく、既製の孔あきボード(ラスボード)になりますが、モルタルを塗った表面は化粧材の漆喰や繊維系の塗り壁で、乾燥して表面がヒビ割れやすい土壁の進化版でした。今では多くの住宅の現場ではドライ工法と言って、水を使わない仕上げ材に変わっていますが、そのことによって伝統的な左官の技術が、一般的な住宅の現場から急速に消えてしまったことは残念です。
民家園の多くの民家の壁は小舞壁の土壁で、スサなどを入れて乾燥収縮を抑えていますが、中には多くのヒビが入り、柱や土台との間に隙間ができているものもあります。
外部の壁には一部に漆喰で補強したり、土壁の上から竹や木の皮などを張り合わせ、雨による風化から外壁を守っているものもありました。瀬戸内の島々の民家では焼いた杉板で表面を保護していて、それが地域の風景を形作っています。
土壁の乾燥収縮によるヒビ割れと隙間風、雨水による風化から建物をいかに守るかに多くの人々の知恵がつぎ込まれ、地域性やコミュニティなども生まれていたのだろうということを考えると、風化しにくい素材の登場が抽象的に豊かな生活をもたらし、同時に地域性や人々のつながりを弱めていったようにも思われます。人々が求める豊かさは時代や地域により変化するもので、一律には決められない難しさがあるとつくづく思います。(ht)