イスラエルの「公共空間」
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建国60年を祝う飾のある古い街かどJaffa
もう10年近くになりますが、ちょうど建国60年を迎えた2008年5月にイスラエルを訪れる機会がありました。
地中海の東端に面しているとは言え、周辺の国々は砂漠が国土の大半を占めるような環境なので、イスラエルも大変乾燥しています。最初に驚いたのは街路樹の足元にくまなく灌水用の黒っぽいホースが巡らされていることで、定期的に自動灌水されるそうですが、大変な費用をかけて街の樹木を維持しています。伝統的な建物の建材は砂岩が多く、それはエジプトの砂が地中海の海流に乗って流され、長い年月をかけてイスラエル沖に堆積したものだそうです。
砂岩の凸凹した表面、表面に漆喰を塗って仕上とした
ですから、古い街の遠望は砂の色が多く、その中で緑の樹木が砂漠のオアシスのように見えて、いかに大切なものなのかが実感できます。テルアビブは新しく20世紀コンクリートの近代建築でつくられた都市なので主に白系の色で統一されていますが、都市を貫くブールバールには鬱蒼とした街路樹が育っていて、上から眺めるとすぐにその場所がわかるほどです。ユダヤ出身の有名な富豪、ロスチャイルド家の功績を讃えてその名前が付いていて、いかにロスチャイルド家の活躍を人々が誇りに思っているかが伝わります。
テルアビブを貫くロスチャイルド・ブールバール
日射しは強いのですが乾燥しているので、一旦日影に入って風さえ抜けてくれればそこは涼しい休憩所になります。石壁に囲まれた中庭はヒンヤリしていて、そこに日除けのテントを架ければその下は絶好の休憩所ができます。
また、一本の立派な樹木の下にも豊かな交流の場が出来上がります。
しかし、最大の休憩所(人々が気軽に楽しめる公共空間)はスーク(市場)ではないでしょうか。エルサレムの古いスークを訪ねてそう思いました。通りには高い屋根が架かり、日射しを防ぎながら所々では光を採り入れて内部が暗くなり過ぎないようにしています。暖まった空気を屋根の開口から吐き出して涼しい風を足元から採り入れる換気装置にもなっているようです。
半ボールト状の天井、上部から商品が通りを覆う
スーク天井に開いた開口
スークの枝道から外部を見る
ルドフスキーの有名な本、「建築家なしの建築」ではアフリカ圏の日射しを遮る通りの風景が紹介されていますが、そのような通りが街の中心にでき、そこに人々が集まる市場ができたのでしょう。テルアビブのロスチャイルド・ブールバールは現代のスークなのかも知れません。
「建築家なしの建築」の街路風景
さて、スークの中はモノの質感や色で溢れかえっています。商店内だけでなく店の前面や、3-4m幅の通りの天井からも色とりどりの商品が下り、外のモノトーンの風景に対抗するかのように厳しい自然に抗う人々の活気を感じます。小さな枝道は子どもたちの絶好の遊び場にもなっています。涼し気な通りを老人がゆっくり歩いています。
通りに溢れでた色とりどりのお菓子
食器を売る店舗内部
涼し気な通りを歩く老人たち
枝道を遊び場にカスタマイズしている子どもたち
商店街というと商取引の場としてしか認識されにくいですが、考えてみると日本でも店や近所の人々とのコミュニケーションの場であるとともに、ウィンドウショッピングなど楽しい散歩の場所でもあり、各地の商店街をシャッター通りから人々が気軽に楽しめる本来的な市場に再生する意味は大きいような気がします。(ht)
祭り時の横浜橋商店街