2016年 06月 18日
高山の民家
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岐阜、高山の民家といえば吉島家と日下部家に代表される、美しく端正な梁組の土間空間が印象的な建物です。その最初の出会いは大学院1年生のときに参加した「第2回高山サマーセミナー」で、そのセミナー主会場として、講師のレクチャーを聞くのに使われたのが吉島家だったように記憶しています。
4年生で所属した大学の篠原研究室には、ボロボロになりかけた「日本の民家」という分厚い写真集がありました。写真家の二川幸夫氏撮影の写真集を彩る各地の民家や集落の風景は美しく、その中のいくつかの印象的な風景や民家を訪ねて、学生時代には各地を旅行しました。ですから民家の土間空間は初めてではなかったのですが、高山のふたつの建物の端正さには、一般的な民家の、素朴な力強い空間性とは異質なものを感じていました。そこには、創り手のある種の洗練に対する明確な意識があり、現代の建築にも十分通用するもののようにも感じました。
吉島家土間
日下部家土間
ちなみに、サマーセミナーの進行役は伊藤ていじ氏で、「日本の民家」挿入の文章の担当者であり、二川氏と同行して各地の民家を訪ねており、私が参加した年には講師で二川氏も来られていたので、今考えると、まさにこの本に導かれた感があります。
次に訪れたのは独立して事務所を構え、富山の現場に通っていたときでした。たまたま休日を挟んでいたので、その空いた時間を使って高山に行きました。そして、当然のように2つの民家を訪れ、土間空間の端正さ、力強さにあらためて接して感動の追体験をしたのですが、驚いたことに、2階の座敷がスパイラルを描きながら上昇していくことに気が付きました。おまけに、吉島家の座敷天井は一部湾曲しています。なんて作為的な意匠なのでしょうか。通り側の軒高を抑えながら、2階の座敷に必要十分な天井高さを確保するための機能的な解法のようにも思われますが、とても楽しく、わくわくする体験でした。
階段上がって左を向いたところ、湾曲した天井。奥の座敷は一段高く、その奥は左手に
さらに上がる
左を向いて前方を見上げる、奥に向かってさらに座敷が上がる
上がりきった座敷から振り返る
そして、今年の4月に3度目の訪問を果たしました。今回は「ぎふメディアコスモス」を事務所のみんなで訪ね、北陸に抜ける途中で、他のみんなが初めてというので、高山で途中下車して訪れました。高山は有名な上三之町はじめ海外の旅行者で一杯でしたが、そんな中で2つの民家は入口の引戸が通りに対して閉じていることもあり、訪れる人もまばらで、落着いて中を見ることができました。3度目だし、年相応の経験もしているので、縁側(廊下)にケヤキの大きな板を使っている贅沢さに驚いたりもしたのですが、ちょうど、午後の日射しが良い角度で1階の座敷に入り込んでいたこともあり、今回は1階の座敷の気持ち良さに触れられ、伝統的な日本の座敷の庭と縁側、障子紙に反射、透過する光の心地よさなどを再確認した思いです。
いずれも日下部家1階座敷
3度の訪問でも飽きさせず、次々と新しく発見的な経験を与えてくれる高山の民家の奥深さにあらためて感心します。じっくりと計画を練り、良質な素材にこだわり、積極的なチャレンジもしながら、さまざまに豊かな場を人々に提供している、そんな建築をこれからも目指していきたいものです。(ht)
日下部家土間床
by wstn
| 2016-06-18 15:21
| ht
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