2016年 04月 04日
レーモンドの住宅
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レーモンド設計の「旧井上房一郎邸」を見に行きました。レーモンド自邸を気に入った井上が同じような建物を自分の住宅としてレーモンドに求め、実現した建物のようです。
平屋の東西に長い建物のほぼ中央に入口があり、左右でリビング棟と寝室棟に分けられ、さらに寝室の奥にはキッチン・ダイニング、女中部屋などが控えています。リビング棟は上部にハイサイドライトを採り入れる窓があり、露出の暖炉の煙突とともに上部へと人々の視線を誘います。
リビングの庭方向を見る、床が低く庭と連続する
リビングのハイサイドライト側、暖炉の煙突が伸びる
丸太の柱、梁に半割丸太を組合せた方杖、庭と連続感のある低い床などが、魅力ある空間性を作り上げていますが、私にとって、この建物の魅力的な特徴は何と言っても入口に連続する半外部のテラスです。床は乱張りの石で、上部には母屋と同じ屋根が架かり、ガラス屋根からは光も差し込みます。そこにはテーブルと椅子がしつらえてあります。
入口付近から建具ガラス越しにテラスを見る
テラスにある椅子に座って入口側を見る
桂離宮の月見台をはじめ、清家清自邸の外部に出せる移動タタミ、伝統的な家屋の縁側など、住宅に近接して積極的に外部の光や風を楽しむ場所の工夫は日本にもさまざまありますが、日常的な食事を気軽に(フォーマルにも)楽しめるこのような場所づくりはあまり知りません。グロピウス自邸には、庭に向かって張り出したコーナーの壁に虫よけの網を張った、蚊帳の中のような食堂がありましたが、西欧人には、天気の良い季節にはできるだけ外部の光や風を楽しむ生活スタイルが、日常的に染み付いているようです。日本の場合はむしろ非日常的な場を楽しむためなのか、花見やハイキングなどに限られ、ゴザなどに直に座るという、より自然に近い状況を楽しんでいるようにも見えます。
残念だったことは住宅へのアプローチで、半外部のテラスは本来、入口から入ってその先の目の前に広がっているはずなのに、美術館の敷地ではテラス側からアプローチさせていることです。これだと、単なる入口前の大きな庇のような体験になり、驚きが少なくなってしまいます。
ところで、リビングの床が低く庭と連続しているのは、元々のレーモンド自邸での靴を履いたままの生活スタイルに対応した床高さをそのまま踏襲したためのようですが、一般的な日本の住まいは、土間の床でない限り、湿気対策として床下にスペースをとって換気できるように、ある程度の高さがあります。ところが、同じように床が低い住まいをつい最近、奈良の町家で拝見しました。奈良町で一番大きいという町家内部が開放されていて、たまたま訪れた建物の入口から通り庭を抜けて行くと、奥に長く続く間取りの先に床が低い部屋がありました。
町家内の通り庭、かまど、流しが置かれて炊事場になっている
床高さが低く抑えられた町家の座敷
廻りの庭に勾配があって、奥に向かって徐々に高くなっていたのかも知れません。偶然かも知れませんが、外観の表情は、ガラス引戸の意匠も似ていて、まるでレーモンドの住宅のようです。慣習的な日本の住宅がもっているプロポーションを少し変えただけで、建物の印象はずいぶんと変わるものです。
ちなみに、この引戸の桟の内側には竹が貼り付けてあり、節のつくるリズムが面白く、感心しました。(ht)
by wstn
| 2016-04-04 13:06
| ht
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