影の空間
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チューリッヒ 雨宿りに駆け込んだスペース
日本は近代化のなかで都市部からいわゆる闇の部分をどんどん駆逐して、明るく健康的で隅々まであかりに照らし出された世界をめざしました。それが近代化だと思われ、電気のあかりが文明化の象徴でもあったのです。木材でできた建物は壊しやすく、たやすく理想的な状態に改変されていきました。その性急なスクラップアンドビルドの延長上に、衛生的で世界一安全と言われる日本の都市が生まれた反面、どこも同じような印象の場所の集積で、一面ではコンビニのように奥行きのないフラットな印象の街にもなっています。また、私たちは伝統的なものや歴史的な建物との現代的なつきあい方も不得手で、古い建物のうまいリニューアルの例はなかなか見受けられません。西欧の都市は石造りの建物が多いことで、簡単には造り変えることができないために、その街の歴史的な建物が現代にも同居し、時間的にも空間的にも奥行きの深い印象の街をつくりあげています。新しい建築をつくる上では重い足かせにもなりますが、豊かなバックボーンのなかで常に歴史の流れを意識した創作を展開できます。また彼らは自分たちの歴史を大切にすることはもちろん、影と光が創り出す空間も好んでいて、生活のなかにうまく活かしているように思います。
ケルン 美術館内部 サイドからの光がつくる影
エッセン旧石炭精錬所内部 カウンターの黒が美しい
事務所では古い建物の改修に続いて、鉄道高架下に建物を新築するというプロジェクトがはじまりました。鉄道高架下というと薄暗く、犯罪に結びつく影のイメージがありますが、そこは耐震改修されたばかりで新しく、地面が乾いていることもあってとても明るい印象の場所です。しかし、ここは普通の場所ではありません。残念なことに、高架下に寄生することができないために、独立した構造の建物としなければならないのですが、私たちは高架下だからこそできる建物について考えてみたい。そのときのキーワードのひとつが影です。影が魅力的な空間を是非つくってみたいなと考えています。(ht)
ベルリン美術館内部 教会のような崇高な空間
ミュンヘン建物内の商店街 暗さを利用した光り輝く素材感